Installation SS

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インスタレーション Projections

愛知県名古屋市 文化のみち 橦木館
空間インスタレーション
橦木館の歴史的な建造物と風情のある庭のつくる風景は美しい。特に、建物の窓には古い手吹きガラスがはめ込まれており、現在の工業製品としてのガラスでは決して生まれない微妙な凹凸が作り出す歪んだ景色が乙である。

内外を隔てるこの歪な境界を、室内にもまた敷き並べるように小さな建築を自立させた。この建築は、基礎と見立てた畳の隙間に厚さ250ミクロンのアクリルフィルムを差し込み、1ミリのアクリル板で張力を補填することでアーチの形状を保っている。250ミクロンだけでは自立せず、1ミリだけではGLに接地できない。相互補填の関係により、それぞれ等価な存在になりえる。同様の化学式を示すアクリル素材であるが、その厚みで呼び名が変わるそれぞれの物質が作り出す建築は、まさしくそれが新しい名称を持つ可能性を秘めている。

この建築の建ち方へのこだわりは、橦木館への敬意からきている。

橦木館という歴史的建造物に何も足していないように振る舞うべく、畳の隙間という人間が空間と認識していない空隙から建築が建ち上がる。畳の寸法とそれにより生まれた隙間というコンテクストからこの建築は生成され、そこに吹く風や人の動きに揺れ動く。不動産的な建ち方をしながら、動的なこの建築は、歴史的建造物の中で軽やかに振舞う。

建築の曲面は、庭の植栽だけでなく、空や建物、観覧者などあらゆるものが映り込み、畳と重なり溶けていく。フィルムは、元来写真や映画など、実態を取り込む器であると同時に、現実を虚構化する側面を持ち合わせている。風景を取り込み、歪め、重なり、揺らめくことで生まれる誰も見たことのない橦木館の表情を映す映写機のような建築であるとも言える。