House IT

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住宅 三方吹抜けと密度

愛知県名古屋市
木造住宅
建築面積:60.07㎡
延床面積:101.04㎡
構造設計:小松宏年構造設計事務所
施工  :平田建築
住まい手は、若い夫婦2人で土地探しからの相談であった。愛知県では、未だ土地付きの新築一戸建て住宅、いわゆる「建売住宅」 が多く販売されている。住宅開発では土地が細分化され、建ぺい率いっぱいに総2階建てを建設する手法が一般的であり、販売のしやすさから建物内部は、nLDKのnを極力増やすように細かい部屋に分節される。これにより町は急激に高密化し、採光通風条件が悪化すると共に、人々は不自由で過密な内部空間に閉じ込められる。施主も予算の観点から様々な建売住宅を内見したが、それらが建つ町と間取りの窮屈さから購入を躊躇していた。建売住宅と同価格帯でありながら、それらでは味わえないような大きな土地と開放的な内部をもった住宅を提案することで、ゆるやかな町並みの密度変化とnLDKで計られないおおらかな暮らしにつながるのではないかと考えた。

敷地は、名古屋市郊外の駅から程近い住宅密集地に位置する。100坪を超える土地であるが、敷地の半分が傾斜地であることから、敷地分節型の建売住宅が敬遠され、住宅街の中で更地のまま残されていた。そのため坪単価は、周辺相場の半額以下で売り出されていた。

まず、敷地の平地部分に崖条例ライン、2項道路セットバックライン、1階の延焼ライン(3m)という各種規制を避けるようにボリュームを配置する。これにより、建築が敷地境界線からセットバックされ、住宅密集地において、町に抜けを提供すると共に安定した採光と通風を確保できる。内部は、大きな空間に小屋のような2階を屋根面から吊る構造で計画し、住宅の密集する西南北の三方は、幅770mm程度の細い吹き抜けとする。この吹き抜けは、周囲の密集した建物からバッファーゾーンを確保すると共に、限られた予算で上下階同時に柔らかな光を取り入れながら、家族の暮らしも繋いでいく。さらに、この吹き抜けによって三方の外壁面が2階の延焼ラインから開放され、建具コストを大幅に削減しながら開放性を高めた。このおおらかな吹き抜け空間を作り出すために外部にはφ10mmの既製品ブレースを傾斜地まで延長しながら設置し、耐風圧性を確保している。それらは、セットバックされて得られた周囲の地面と建築を視覚的につなぐ役割も担い、将来傾斜地に植えられた植栽が絡み合う様子も想像している。

本計画は、経済的合理性から考えられた建売住宅がつくる町と間取りの過密性に対する1つの回答である。建築家が施主と共に土地のポテンシャルを再考し、その土地にあった建築を「建売住宅」と同程度の予算で計画することで、まちや人にとっての最適な密度や空間、暮らしが生まれるのではないか。建設中に夫妻に子供ができた。彼らは、土地の傾斜地部分を将来子どもたちが自由に使ってくれればと話している。おおらかな土地を手に入れることが、おおらかな未来につながっている。